田迎さん、いいえ三郎君もUおじさんと頭の中で呼び始めています。Uおじさんが図書館からいなくなってから、司書さんに「これ、言葉づかいがおかしくないですか?」と訊くと「ああ、これ田迎さんのね」。
詳しい話を聞くことができました(もちろん小声です)。Uおじさんは図書館長や本好きの人と同好会を立ち上げたものの、中心となっているUおじさんのわがままが目立ち、今は実質的にUさんひとりでやっているようなものだということでした。最初は同人誌だったのが、書く人もUさんひとりで、ついにリーフレットになってしまったということです。
詳しい話を聞くことができました(もちろん小声です)。Uおじさんは図書館長や本好きの人と同好会を立ち上げたものの、中心となっているUおじさんのわがままが目立ち、今は実質的にUさんひとりでやっているようなものだということでした。最初は同人誌だったのが、書く人もUさんひとりで、ついにリーフレットになってしまったということです。
要は詩吟会とか歌会や、色んなところに顔を出しては、やっぱりうるさがられているらしいのです。
何となく三郎君も分かってきました。自分みたいな本好きに話しかけては、やがてうるさがられるんだ。Uさん自身は大して本も読んでいないんだな。だって、漱石と太宰と鷗外と井伏鱒二に限られているもんな…ということが。
三郎君はUさんと会わないように時間をズラして行ったり、姿を見ると隠れたり、までは行かなくても距離を持つようになりました。
ある日、田迎良雄さんから手紙が来ていました。大規模な工場の誘致が進んでいるが、環境保全の立場から反対の署名活動をしている、協力して欲しいとのことでした。三郎君はまだ五年生ですから、かみ砕いた内容の手紙も添えられていました。
が、なんだか不安になってお母さんに手紙を見せ、それまでの経緯を話しました。
「住所まで教えちゃったの?」
「読書案内でいいのができたら送るってことだったから。」
「住所は教えちゃダメでしょ・・・ってもあんたは、まだ五年生だからねぇ。それにしても小学生の家にこんなの送ってくるなんて非常識にもほどがあるわよ。」想像した以上に怒っていました。
結局両親が話し合った結果、田迎さんに、もう息子とは関わって欲しくないという内容の手紙を送ったそうです。
それから…。
三郎君は図書館に滅多に行かなくなりました。小遣いの範囲で古本屋から本を買っています。Uおじさんのことも、三ヶ月も経つとほとんど考えなくなりました。
ある日、おじいちゃんの家の新聞でおくやみ欄に田迎良雄さんの名前を見つけました。おじいちゃんに話すと「寂しかったんじゃないか」と、そして「別に気にしなくていいからな」と言われました。
(実話、それもごく最近のことを元に書きました。)
ちなみに田迎さんのモデルになった人はピンピンしています。相変わらず、あっちこっち顔を出しては…まあ、関係を断ったので存じません。