強く賢くなろう~池部秀則のブログ

前向きになれる言葉を探して

令和に読み継ぎたい、私のベスト三冊

 「令和に読み継ぎたい、私のベスト3」に倣って、小生も書く…文藝春秋二〇二〇年一月号にこのような企画があったので真似して書いてみました。

谷崎潤一郎春琴抄新潮文庫
ものごとにたいする執着心、歪んだ愛情、コンプレックスといったものが表れている。映像化もされたけれども、この谷崎世界は文章で味わって欲しい。他の出版社からも出ているが、解説も含めた人選を新潮社はきちんと行っている。新潮文庫をお薦めしたい。
「春琴の佐助に対する[いじめ]は、突き抜けている。その[いじめ]というのは中川翔子重松清らが書いているような現代的な[いじめ]ではない。現代の[いじめ]は他人の気持ちを一顧だにしない、人を無生物として扱うものである。春琴の佐助への打擲は歪んでいるとはいえ、まごうことなき愛情から来ている。」と、阿刀田高は斯くの如きサド・マゾ世界はフランス人好みだと書いている。

ソルジェニーツィンイワン・デニーソヴィチの一日新潮文庫
無学な小生であるが、これはおそらく20世紀の最高の文学であろう。ソ連の寒冷地での囚人生活は究極の苦行なのだろうが、そこには人間性というものも、確かに存在している。決して遠いよその国の話ではない。トルストイでもドストエフスキーでもなく、ソルジェニーツィンが、そう思わせてくれた。木村浩のものもいいが、旧い江川卓(えがわたく)訳のものも良い。
産業革命、つまり工業化が人が人を(資本家が労働者を)支配する構造を作った。その解決策として社会主義が生まれソ連で実行されたのだが、行き着くところは腐敗でしかない。イワンの過ごす[一日]が、現代社会の風刺と批判となっている。

柳田国男『火の昔』角川ソフィア文庫
電気もガスもない時代、人はどう火をおこし、どう付き合ってきたのか。図版とともに楽しんでいただきたい。小生が高校生の時、食い入るように読んだ本。
民俗学とはこんなに面白いものなのかという本。学校の社会の教科書が教えてくれない、庶民レベルの歴史。未読者には『木綿以前のこと』と共にお勧めしたい。

 

※三年前に書きました。我ながら良い本を選んだものです。