けふ、「波、な立ちそ」とひねもすに祈る験ありて、波立たず。
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けふ=今日
ひねもす=終日
験(しるし)=効き目、効果
な…そ で禁止。「波よ立たないでおくれ」
『土佐日記』のシンボリックな一節である。航海技術がなく風と波頼みで、当時の人は祈るくらいのことしかできなかった。「ゲン担ぎ」などと今日でも言うがゲンは「験」であり、密教から来ている。
海賊も怖いが、航海そのものも恐怖が伴う。
高校の先生は教えてくれないが、さらに…
紀貫之自身も庇護者である醍醐天皇と藤原兼輔が土佐に赴任している間に亡くしている。無事に帰京しても保障のない心細さがある。無論娘を亡くした喪失感も大きい。
田辺聖子曰く
この時代男は漢文で日記を書いた。が、漢文では哀しみを「泣血(きゅうけつ)」のような固い言葉でしか表現できない。仮名を使った和文でしか表せないと思った。
古典を読むことは非能率に思えるかもしれないが、かなり実がある。